10話の最後、MIU404の黒幕が、エトリじゃなくて久住(菅田将暉)だった時の衝撃。そして最終話に見せた久住のあのシーンでの表情が忘れられない。
共喰いとdele
菅田将暉を初めて意識して見たのは映画館で観た「共喰い」だったと思う。
内容はかなりエグくて、衝撃的でした。両親役の田中裕子と光石研が物凄い力と圧で押してくるんだけど、主役の菅田将暉(当時19歳くらい)が全然負けてない。すごい俳優さんだなぁと思いました。
この作品で2014年日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞しています。
そこからどんどん活躍の場を広げていって、映画ドラマCM舞台、そして音楽。
2年前に放映された「dele」というドラマがあるんですが、共演していた麻生久美子演じる弁護士に、「少しだけ人を優しい気持ちにさせる」と言わしめるいい青年。今回の久住とは180度違う役だったんですよ。とても好きでした。今ものすごくこのドラマが観たくなってます。

演技について
若手俳優の中では抜きんでた存在になっている2020年。人のいい若者の役も、今回のようなヴィランも両方ハマる菅田将暉の演技って、今回、見てて怖い…って思っちゃいました。
どこまで役にはまり込んでいくんだろうって。憑依型というのとはまた違う感じ。同じカメレオン俳優と呼ばれてる伊吹役の綾野剛の演技とは違う。綾野剛は、役を生きるタイプかなぁ。伊吹を生きてた。
こないだ、菅田将暉のオールナイトニッポンにゲスト出演していた時にとても興味深い話をしていたんです。
(綾野剛)初めて。こういう感覚。だから変な話、俺の中には伊吹がいる。生きてるわけじゃない? でも、伊吹の中には俺は生きてねえんだなっていうか。それがわかっちゃうっていうか。気づいちゃったのよ。その最終回を見た時に。「ああ、伊吹は俺のことを知らない」っていう。
やっぱり役を生きてたんだ。撮影が終わって、こんな風にロスを感じるのは初めてだと言っていたので、それだけ思い入れも強かったんだろう。
そして菅田将暉。TOKIOの番組で、自身の演技に対する技術のようなものを披露していたらしい。
(菅田将暉)「右目の方がちょっと釣ってるんです。左目の方がちょっと柔らかいので、なんとなく鋭い役とか不気味な役は右側をちょっと推すんです。柔らかい役は左っていうのはちょっとあるんです」
この技術について実際の画像で説明しているツイートを見たんですが、「全人類に菅田さんの凄さを知ってもらいたい」で検索するとTwitterで出てくると思います。
この目の違い、確かに… と唸ってしまいます。自分のことを熟知した上でプロデュースするっていうのがしたたかで自信に溢れててメンタル強靭。菅田将暉。
久住の正体
久住って、結局本名もわからずじまいだし、関西弁も似非という設定だったというオチがついてたし(ラジオで脚本家の野木氏が言ってました)なんもかんも不明。彼もまたNot Foundだったんですよね…
(エトリの事を聞かれ)
久住「あれはただの人形や」
伊吹「じゃ、久住にとって、人なのは誰?」
久住「なんや、人情ばなしけ?熱血デカやな」
伊吹が久住の真相に迫ろうと、人なのは誰?と聞いても、話を逸らす。
久住「お前は神様か!なんであんたに決める権利があんねん。許されたくないわい。言うとくけどな、俺は大したこと何もしとらん。作りたい奴が薬作って、使いたい奴がつこうて。人形になりたい奴がなった。ま、みんな頭悪いんやな。頭悪い奴はみんな死んでもろたらいいねん」
伊吹「お前こそ神かよ。自分以外全員死んじまえ~って聞こえんぞ」
久住「せやな。全員死ねばええとおもてるよ。汚いもん見んようにして自分だけはきれいやと思てる正しい人ら。み~んな泥水に流されてぜんぶ失くしてしまえばええねん。神様は俺よりもっと残酷やで」
伊吹「あ?」
久住「指先ひとつ。一瞬で人も街もぜ~んぶさろてまう。全部無うなって、それでも10年経てばみ~んな忘れて、終わったことになってる。あ~!頭んなかの藻屑や」
これは本音なんだろう…
自分だけが正しいと思ってるひとみんな死ねばいい。
そして、10年前に起きたこと。一瞬で全部無くなってしまったあの日を想起させつつ、もう既に忘れてしまっていて終わったことになってる事実を突きつける。
「去る者は日日に疎し」と言うことわざがあります。人はある程度忘れていかないと前へ進めないものだけれども、久住にこのセリフを喋らせるということが、ただ単なるサイコパスとして描いてるわけじゃないんだと思わせる。
久住「俺はあんたたちの物語にはならない」
最後まで自分のことを明かさない。何のバックグランドもくれない。彼のスマホに並んでいた連絡先にも名前はなく、「お金持ち ○○」という表象だけ。
自分に付けた名前もクズミ、ゴミ、トラッシュ…
もしかしたら過去に震災ですべてを流されてしまったのかな…とか、家族や親など身近にいる人から愛されなかったのかな…とか、そういう想像一切を撥ねつける久住の表情とセリフ。彼の中にある感情や思いって何だろう、と考えた時、そこにはそんな過去も何もなく、ただ空洞なのかもしれない…
その空洞こそ、ドーナツEPの穴だし、五円玉(志摩がコイントスをしていた)の穴だし、7話「現在地」の最初に出てきたマップ上の現在地を指し示す穴だし、ゴルフ場のホールだし、4話「ミリオンダラーガール」で青池がルビーを入れたウサギの目の穴だし、9話でハムちゃんと成川が落とされた井戸の穴だ… このドラマで象徴的に使われてる穴。
サイコパスという言葉を使って彼を説明するのはあまり好きじゃない。サイコパスってその一言だけで、いろんなものを排除してしまう感じがするんですよね。
殺人を犯す人物造形を説明するのに便利な言葉だけれど、そこで思考停止してしまう感じがする。久住という人物は、自分をカテゴライズされたり、自分の裡にあるものを誰かに見せたり、そういうもの一切を拒否している人物として描かれていて、この先彼がどう変化していくのかしていかないのか、の答えもくれない。
ただ、志摩と伊吹に屋形船の上で捕まり、頭から血を流していた久住に、志摩がタオルを当ててもらうところの表情が忘れられない。
あの顔はそれまで作為をもって作っていた久住の表情じゃなかった。もちろん演出で求められたものなんだろう。あれが菅田将暉… 制作側の拍手喝采が聞こえるよう。あの表情をこちらに見せることで、見ている側が持つ感情を計算し尽してるのか、自然にああなったのか、どっちなんだろう。俳優菅田将暉すごいな…
MIU404最終話から今日で1週間。まだまだ消化できないこともたくさんあって書きたいことがたくさんあって、書くことで自分のなかで昇華できたらいいなと思っているところです。
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あじさい
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