終わってしまいましたね。始まりがあれば終わりがあるのはしょうがないけれども、いつまでも見ていたいドラマ、ほんとに堪能しました。
あらすじ

許さないから
ドラマ終了後からTwitterを見ていたら、賛辞と感動で湧き上がっていました。そのなかに失望の意見もちらほら。
ドラマ自体が希望を持てるラストになったこと、コロナ禍に生きる私たちへの応援歌のような。拭い去りがたい辛くてきつい過去を持つ志摩と伊吹が、許せないけど、許せないからこそ、久住を手に掛けることがない世界。
伊吹「俺はお前を許さない。許さないから殺してやんねー」
志摩「生きて、俺たちとここで苦しめ」
2人の悪夢を入れたのはなぜだろうか
陣馬さんの意識が戻り、仲違いしていた志摩と伊吹も404として働き続けている2020年のラスト。桔梗さんが責任を取って異動してしまったのは残念だけど、行った先が西武蔵野署ってことは、そこに毛利刑事の存在も感じられるし、UDIの彼らだってそこで働いてるんだろうな、とアンナチュラルとの地続きな世界も改めて嬉しい。
ただ、トゥルーエンドの前に、挿入された悪夢のバッドエンド。志摩と伊吹が薬をかがされてトリップした夢の中の出来事として描かれたあの時間は、必要だったんだろうか。
夢オチを使うことでなんでもありな世界になってしまうことへの批判のようなもの、理解できます。
神の視点を感じてしまった
物語を作る人は、神。のようなものだと思う。その人がバッドにもハッピーにもできる。ドラマで誰を生かして誰を殺して誰を犯罪者にして冤罪にするか、ストーリーテラーとしてどうすれば共感を得られてガッテンされるかを考えると思うんだけど、最終回、あのハッピーエンドが描きたいものであれば、あの悪夢の意味は何だろうと考えてしまう。
1話から最終回に至るまで、分岐点やスイッチに関してあれだけひとつひとつ積み重ねてきて、どれだけ抗っても罪を犯してしまうというどうしようもなさ、それは特別なことじゃなくて見てる視聴者だってそういう可能性があるんだよって描いてきたわけで。
神の視点で言えば、加々見を犯罪者にしない選択だってあるだろうし、ガマさんが踏みとどまる選択だってある。ハムちゃんが間に合わない可能性だってあり得るわけで、どんな結果にもできる。だって脚本家が作ってるんだから。作りものだから。それでも、ここまでの縦軸横軸、キャラクター、埋もれてしまいがちな社会問題をがっちり描いてきたから、それぞれのストーリーの必然性を見てる側は信じてる。
でも、最後の最後で、もしかしたらあり得たかもしれないバッドエンドを見せて、それを夢オチのカタチにしてしまうのを見たら、神視点を感じてしまって、喉に魚の骨が刺さった感じなのです。
悪夢を入れる必要とは
きっと野木氏は、こんな反応が出ることくらいわかりきってたと思うんですよね。それでもあの悪夢を入れた。その理由はなんだろう。
勝手に考えてみます。
コロナがなかったら悪夢がトゥルーエンドだった?志摩伊吹の関係性をあの悪夢のような形で終わらせる形が脚本家の理想だった?しかし、コロナのせいで社会も常識も全てが変わってしまった。少しでも希望の持てる明るい最後にしたかった。で、バッドエンドにすることをやめた。のか?
MIU404のエッセンスは、そうとはわからせずに、1話にかなり表れていたんですよね。
「404エラー Not Found」もそうだし、車のあおり犯が「ツブッターに書いてやるからな」とSNSについて言及していたし。
銃についての志摩と伊吹の考え方の違いについても明らかに伏線のように思われる内容だと思ったんです。
犯人に対して過去、銃を抜いてしまったと言う伊吹。日本の警察は、9割が銃を抜かない。撃たないんじゃなくて抜かない。と強く言う志摩。
スイッチや分岐点をこれでもか、と突き詰めてきたからこそ、志摩伊吹がもしかしたら「銃を抜いてしまった」結末がこうだったかもしれない、というのをどうしても描きたかったのかな。そしてそれは、視聴者が(実は)見たいと思ってたものに重なった…?(悲劇的だけれど、救いのない結末というのも魅力ではあるから…)
伊吹という相棒を得た後でも、自らの失敗を許せない志摩の孤独と後悔、自分が恩人のスイッチになれなかった事と、無辜の魂で信じてきた相棒から浴びせられた言葉に傷ついた伊吹の闇。それらが悪い方へと転がっていったならば、悪夢のようになってもおかしくない。
その可能性をどうしても見せたかったんではないか。
そしてその悪夢の内容が、志摩と伊吹それぞれが、それぞれへの思いの深さとお互いの信頼の深さをこちらに知らせるようになっているっていうのがね… ここをどうしても描きたいっていうのがあったんではないかなと。
特に、志摩が「俺が死んだら俺の“相棒”はお前を許さない」のセリフ。
この、志摩の伊吹への信頼というか、志摩ならではのひねくれ具合で伊吹のことなら俺が一番知ってるっていう自信の溢れかた。この部分がどうしても描きたいことのように感じてしまう。
フロイトの考え方で、「夢というのは、無意識の中での自己表現である」というのがあって、まさに、志摩と伊吹が深いところで、意識にも上ってこない深層で考えていることをこの悪夢で表現したと考えると納得できる気がする。
でも、志摩伊吹には四機捜の他のメンバーが居た。瀕死の重傷を負った陣馬さん、今や四機捜を心から愛している九ちゃん。桔梗隊長。副隊長。糸巻さん。
陣馬さんがこのまま目を覚まさないエンドじゃなく、陣馬さんから多くの事を教わって渋々ながらも警察庁へ戻ることを受け入れ、その間の有給消化に陣馬さんの病室で時間を過ごす九ちゃんが一生懸命話かけ、陣馬さんの目を覚まさせる契機になるというスイッチ。
それを知らせる九ちゃんからの怒涛のメッセージによって伊吹が目を覚ます。陣馬さんの生還によって、自分の失敗だと思っていたあの選択が違う方向へ舵を切りだす。そしてふたりで海へ。
最悪な結末。それを回避できたスイッチは、ふたりがいっこいっこいっこ、その時々に最善だと思い、ルールの中で歯を食いしばりながらやってきたことの帰結なんだと思わせてくれる。
志摩の過去を知りたいと桔梗隊長に詰め寄った伊吹のまなざしや、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンについて九ちゃんに力説した時の志摩の真剣さ。それを心にとめる九ちゃん。ハムちゃんを自由にできなかった無念とそれを晴らせる寸前の、「目の前だよ!」の桔梗隊長の青筋。「俺達の仕事は、できなかったことを数えるんじゃなくて、できたことを数える」ことだとひたすら若者への目が優しい陣馬さん。
忘れられないシーンのひとつひとつを繋ぎ合わせていくと、最終回のエンドがぴったしくる。でも、何かが変わっていたら、何かひとつでも欠けていたら、もしかして悪夢のバッドエンドだってあったんだ、と印象付けることで、今の社会で希望を失わないでと願いながらも、志摩や伊吹も私たちだってあちら側に取り込まれることだってあるんだとも言いたかったのかな、と。
コロナという、人類がどうにもこうにもコントロールできないウイルスの出現でみんなが多くのことを諦め、諸行無常な気分に陥ってしまいがちな社会に、毎週ドラマを待ちわびるという楽しみをもらえたこと。彼らが私たちと同じ世界を生きているかもしれない思わせるマスク姿に希望をもらったことはほんとにありがたい。そこにあの悪夢を入れることで志摩と伊吹の深層心理を見せ、ピリッとした緊張感も感じさせつつ。
「2020」の持つ意味
コロナでオリンピックが中止となり、あったはずだった「2020」と、ずれてしまった現在の「2020」をこういう形にして見せるというのはすごい着眼だと唸りました。
コロナで失ってしまった「2020」をゼロとしてそれが国立競技場を上部から見たときに見えた形と重ねるって!さすが野木氏。そこに、オリンピックへのシニカルな視線も見れる。I♡JAPANだって、その通りの意味に取れないし…笑
1話からこの話が2019年であることは強調されていました。でもきっとコロナ禍の前だよね、脚本作成は… 主題歌の感電を作るとき、米津氏は2話までの脚本を貰って読んで作ったとあったから、楽曲依頼はかなり前のはず… だから、きっと違うニュアンスでこの伏線を回収したんでしょうね。
ifを考えたところでしょうがないけれども、コロナがなければ、悪夢のようなことが寸前まで起こり、でも最後には四機捜メンバーの協力で、伊吹も志摩も久住を撃つことなく確保したってことになってたかな?オリンピックが行われる中で、オリンピックへの批判もきっとあったのかもしれない。それも見たかったなぁとも思ってます。
コロナで数話削ったらしいと聞き、その全貌をまだまだ見せてない感が更に強まりました。ぜひ、シーズン2を見たい。続編はなかなか上手くいかないってこともあるけれど、きっとMIU404ならば、また私たちの予想のななめ上を行く展開を見せてくれる。はず!!
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あじさい
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